● 判 例
全国重症心身障害児を守る会事件(育介法の不利益扱い) 東京地裁 平成27年10月2日
● 概 要
・会は、施設を運営している社会福祉法人である。
・従業員ら3名は看護師等として働き、ある期間において育児介護休業法に基づく短時間勤務制度(6時間勤務)を利用していた。
・この間の給与は、8分の6の計算によって支給されていた。
・また、この期間の昇給額についても、規則に基づき本来の昇給額の8分の6としていた。
・従業員らは、この昇給抑制を違法として差額分を請求した。
・裁判所は、育児介護休業法に定める不利益な取り扱いとして、会社へ支払いを命じた。
● 解 説
労働関連の法律で、育児介護休業法というものがあります。
これは核家族化が進む中、従業員が失業することなく、育児又は家族の介護を行えるようにしましょうという趣旨で定められた法律で、該当者が希望すれば、休業させてあげること、所定労働時間を短くしてあげること、残業を免除すること等ができるように会社が制度を定めることを求めています。
今回の判例では、所定労働時間を短くする制度を利用した従業員に対する昇給の取扱いが争点となりました。
8時間労働に対して労働時間を6時間に短縮した場合、給与を6/8とすることは問題ありません。ノーワーク・ノーペイの原則により働いていない分の賃金を支払う必要がないからです。
一方で、昇給額についても6/8にすることは可能でしょうか?
会社は、会社で定めた就業規則に乗っ取り運用していたようですが、次の理由によりその定めは法違反として裁判所に否定されました。
・働いていない分を減額していることと合わせて2重の減額となっている
・労働者に短時間勤務制度の利用を躊躇させる恐れがある
いくら、就業規則にあれこれ書いても、訴訟まで行くと裁判官に就業規則を実質的に書き直されてしまう典型的なパターンです。
今回の訴訟で従業員らが得た金額は僅か、19~27万円で労力に対して割に合わないと思いますし、会社も弁護士費用の方が高くついたのではないでしょうか?
このようなもめ事は、世の中に多々あると思いますが、多くは訴訟まで発展しません。
なぜ裁判までしないと着地できなかったのかという点が、問題の本質かと思います。
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