● 判 例
シンガー・ソーイング・メシーン事件(賃金債権の放棄) 最高裁 昭和48年1月19日
● 概 要
・会社と従業員は、労働契約を合意解約し、従業員は退職した。
・従業員は地区総責任者の地位にあったが、競合他社に転職することが明らかになっていた。
・また、在籍中の旅費などの経費において辻褄の合わない点がいくつかあった。
・会社は、上記の損害補てんの意味も含めて従業員に対して「勤務に関する一切の支払いを受領した。会社に対していかなる請求権をも有しないことを確認する。」という念書にサインをさせ退職金408万円を支給しなかった。
・従業員は、退職金を放棄したつもりはなかったし、労働基準法の賃金全額払いの原則にも反するとして支払を求め提訴した。
・1審では従業員の主張を認めたが、2審では請求を棄却し最高裁で確定した。
(退職金の支払いは不要)
● 解 説
賃金債権の放棄はよくご相談を頂くものの一つですが、この判例のように見方によって結論が分かれるため、判断が難しいものです。
労基法に“賃金全額払いの原則”というものがあり、例えばユニフォーム代や研修代等を勝手に給与から控除することは禁止されています。(30万円以下の罰金)
※あらかじめ労使協定を締結することで控除が認められます
今回の判例では、労働者側は、この原則に違反するものとして退職金の支給を求めました。
それに対して最高裁は“賃金全額払いの原則”は、労働者の経済生活を脅かすことがないように定めたものなので、労働者の自由な意思に基づいて退職債権(退職金をもらう権利)を放棄したのであれば、この原則に反しないとしました。
そして、自由な意思に基づく合意があったか?がポイントになりました。
この合意というのは、合意書に署名、捺印をもらえばOKというものでなく実態を見られます。
自由な意思の有無について類似の判例で用いられた判断のポイントは次の項目です。
① 従属的な立場にないこと
② 対価を受け取っていること
③ 交渉態度が威圧的にないこと
今回のケースでは、競業他社への転職や不透明な経費処理を不問にすることが②の対価に該当すると考えられたようで、会社側の主張が認められました。
従業員に債権放棄を求める際には、上記のポイントを意識しておきましょう。
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