● 判 例
日本システム開発研究所事件(年俸制の賃金決定) 東京高裁 平成20年4月9日
● 概 要
・会社は、中央官庁等からの受託調査・研究などを行う公益法人であった。
・従業員らは、研究室長、研究員であり期間の定めのない労働契約を締結していた。
・会社では、20年以上前から年俸制を導入していたが、就業規則に定めることなく運用していた。
・会社は、業績悪化にともない年俸の評価方法を改め、従業員らについて前年度よりも大幅に減額した年俸(1200万円から752万円等)と算定し、減額した年俸で支払いを開始した。
・これに不満をもった従業員らが前年度の年俸との差額支払いを求めて提訴した。
・裁判所は、従業員側の主張を認めた。
● 解 説
近年、成果主義の賃金制度が広まると共に『年俸制』を採用する企業も見られるようになりました。
年俸制というのは、プロ野球選手のように今年の成果を見て翌年の報酬を定めるという制度で、いわゆる『年功制』と比べると、給与が下がることもあるし、大幅に上がることもある従業員にとってはハイリスクハイリターンの制度になります。
当然ながら、その成果の“定義”を明確にしておかないとトラブルに発展する危険性も抱えています。
そして、交渉が不調に終わった場合の年俸はどうすればよいか?という疑問が生まれます。
判例では以下の通り判断しました。
期間の定めのない雇用契約における年俸制において、使用者と労働者との間で、新年度の賃金額についての合意が成立しない場合は、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続、減額の限界の有無、不服申立手続等が制度化されて就業規則等に明示され、かつ、その内容が公正な場合に限り、使用者に評価決定権があるというべきである。
上記要件が満たされていない場合は、労働基準法15条、89条の趣旨に照らし、特別の事情が認められない限り、使用者に一方的な評価決定権はないと解するのが相当である。
交渉が不調に終わったときはどうするか?まで踏み込んだルールを決めて就業規則に明記しておかないと、合意に至らなかった場合には合意できた前年の年俸を維持するということですね。
合わせて年俸制は残業代を払わなくて良いという都市伝説もありますが、そのような法律はありませんのでくれぐれもご注意ください。
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