令和3年7月初旬に、厚生労働省から、令和2年度「個別労働紛争解決制度の施行状況」が公表されました。
「個別労働紛争解決制度」は、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルの未然防止や早期解決を支援するもので、「総合労働相談」、労働局長による「助言・指導」、紛争調整委員会による「あっせん」の3つの方法があります。
―――――― 令和2年度「個別労働紛争解決制度の施行状況」のポイント ――――――
●総合労働相談件数は前年度より増加。助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数は前年度より減少
・総合労働相談件数は129万782件で、13年連続で100万件を超え、高止まり。
●民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全項目で、「いじめ・嫌がらせ」の件数が引き続き最多
・民事上の個別労働紛争の相談件数では、79,190件で9年連続最多
……下記の【図:民事上の個別労働紛争|主な相談内容別の件数推移(10年間)】参照
・助言・指導の申出では、1,831件で8年連続最多
・あっせんの申請では、1,261件で7年連続最多
【図:民事上の個別労働紛争|主な相談内容別の件数推移(10年間)】
(※)令和2年6月、労働施策総合推進法が施行され、大企業の職場におけるパワーハラスメ
ントに関する個別労働紛争は同法に基づき対応することとなったため、同法施行以降の大
企業の当該紛争に関するものは、いじめ・嫌がらせに計上されていない。
☆ 個別労働紛争のトップが「いじめ・嫌がらせ」であるということは知っておきたいところです。
このような状況をみると、各企業において、各種ハラスメントの防止対策などに万全を期す必要があるといえます。
SNSの炎上等が経営上のリスクに(検討会の報告書)
厚生労働省から、「技術革新(AI等)が進展する中での労使コミュニケーションに関する検討会」がまとめた報告書(12回にわたる検討の結果をまとめたもの)が公表されました。
その中で、SNSの炎上等に関する指摘もあり話題となりました。確認しておきましょう。
―報告書/「ソーシャルメディアの進展に伴う労使コミュニケーションに関する課題」―
SNSなどのコミュニケーションツールが多様化し、個々の労働者による情報の受発信の在り方の変化することにより、労使関係や労使コミュニケーションにも影響が及んでいる。具体的な影響として以下のような事例がある。
<SNSへの書き込みの「炎上」>
○労働者が職場で受けた不本意な処遇・取扱い等についてSNS上に会社名が特定される形で書き込み、社内での問題を公にした場合に、SNS上で非常に多くの参加者から共感を得ることで社会的な批判が巻き起こり、当該企業や労働者が影響を受ける事象が発生している。
<「タイムライン」を通じた個人の価値観の強化・アップデート>
○SNSの普及により「タイムライン」等を通じて、自分の興味のあるものをフォローすることにより、自動的に自分の求める情報の受信が可能となったこと、自らの考え方への共感を即時に得られること等により各自の考え方が強化されるという現象が発生している。
○個人の労働環境に関する考え方についても同様に日々、個人の興味や選好が反映された最新の情報に触れることで、自身の考え方がより強められる方向で更新され続けることや、SNS上で同様の問題意識を持った人々の共感を得ることにより、職場への不満の声を上げやすくなっている可能性がある。
○労働者の価値観が多様化する一方、企業が組織として速やかに考え方の変化に対応していくことは容易ではなく、これにより個人と企業との間で労働環境に関する考え方が乖離し、労働条件等について労使で話し合いをする際、前提となる認識のずれによるコミュニケーション不全(ディスコミュニケーション)が生じやすくなっている。
↓ 今後の労使コミュニケーションの方向性は?
●企業が労使コミュニケーションに取り組む際には、ソーシャルメディアの普及など、時代の変化に応じて労働者の労働環境に関する考え方が変化していることを踏まえて、企業と労働者との間での認識の違いを埋める姿勢が求められる。
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☆ 労働者がSNSで不満を訴え、企業が損害を受ける事例が発生していることなどは、把握しておきたいところです。
具体的な対応としては、社内で不満を表明しやすく、表明しても不利にならない雰囲気、企業文化を醸成することや、相談窓口など労働者の不満・苦情を処理できる仕組みを設け、実際に機能させることなどが考えられます。