● 概 要
・会社はホテル経営を業とし、従業員はそのホテルでフレンチの料理人として勤務していた。
・当初、年額約624万円の給与で労働契約を締結したが、その後年額500万円程度に減額したいと会社は申し入れ、「ああわかりました。」と従業員は返答し、実際に減額された。
・その1年後、改めて「労働条件確認書」を会社が提示し従業員は署名押印した。
・従業員は、退職後に“賃金減額の無効”、“残業代の未払い”を主張し訴訟を起こした。
・会社は、賃金減額は口頭で合意があった。また、残業代については職務手当として毎月95時間分の残業代を固定残業代として支払っていたことを主張した。
・高裁は、賃金の減額は「労働条件確認書」の締結までは無効であり、固定残業代については45時間分までを認め、それを超える分について別途支払いを命じた。
● 解 説
労働条件の変更は、立場の弱い従業員を守るという観点から合意形成の手続きに慎重さを求められ、トラブルに発展した場合には口頭での合意は認められにくいのが現状です。
今回のように実際に減額された給与を1年も貰い続け不満を口にしていないという客観的状況から明らかに合意があったと考えられるようなケースでも、訴訟になると契約書がないとダメという結果になるリスクが存在します。
よって労働契約も通常の企業間の契約同様にきちんと書面で交わすことが必要になります。
また、固定残業代についても、正しい運用がされていないと否認されるケースが最近増えてきています。 以下のルールが守れていない場合は、否認される確率が高いのでご注意ください。
① 固定残業手当額が実際の残業代等に満たない場合は、その差額を支払うこと |
② 固定残業手当が残業代であることを労働契約書等に明確にしていること |
③ 固定残業手当分が基本給等から区分され、独立していること |
今回のケースでは、①がされていなかったことと、そもそも95時間分の固定残業代の設定が
公序良俗に反するおそれがあることから、36協定の水準であり脳梗塞などの労災認定基準の水準でもある45時間を裁判所が採用し、これを超える分については支払が必要になりました。
実際に固定残業代が否定されると、固定残業代自体が割増賃金の基礎になるリスクがあります。
≪ 基本給×1.25 ⇒ ( 基本給+固定残業代 )×1.25 ≫
大きなリスクを伴うので一度、契約書の状況や労働時間管理について確認をしてみましょう!
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